弊社では、1952年から機械式無段変速機「バイエル無段変速機」を生産開始し長年にわたり化学、鉄鋼、社会インフラ、一般産業等に広く採用頂いています。
インバータの高性能化(センサレスベクトル制御搭載インバータ)に伴い、低速から定トルク運転用途で機械式無段変速機の更新時にインバータ運転化するケースも出てきています。
今回は、機械式無段変速機の特長を理解した上で、インバータ運転化する際の注意点をご紹介致します。
バイエル変速機は定トルク運転の用途、高変速範囲の用途やバイエル無段変速機の特性を生かし、低速から大きなトルクを必要とする定馬力運転の用途までご採用されています。
バイエル(以降簡略)は3つのシリーズで構成されています。
また、サイクロ減速機を直結したバイエル・サイクロはコンパクトな無段変速と減速を可能にしています。
環境対応として、耐圧防爆(d2G4)もオプション対応しています。
■A形シリーズ
特 性:定トルクと定出力の中間特性
変速範囲1:4
トルク特性:最低速:最高速=2:1
主な用途: コンべア等の定トルク運転用途が中心
■B形シリーズ
特 性:定出力特性
変速範囲1:4
トルク特性:最低速:最高速=4:1
主な用途: 反応釜等の化学機械等の低速域で大きな出力が必要な用途
低速で4倍のトルクを得られます。
■D形シリーズ
特 性:定トルクと定出力の中間特性
変速範囲1:10の広範囲運転
トルク特性:最低速:最高速=3:1
主な用途: 広変速範囲が必要な用途
この3シリーズは、機械式無段変速機のため一瞬の過負荷にも強い特長を持ちます。
インバータの定トルク運転は、定トルク運転用の専用モータ(AV、AP)とセンサレスベクトル制御モード
を組み合わせて運転することで最適の定トルク運転ができます。
但し、インバータ運転では直入れ運転されるモータと異なり、インバータによって制御された可変電圧が
モータに印加されるため(V/fを基本にベクトル制御された電圧)インバータとモータ間の配線サイズに
よる電圧降下の影響が大きく出ます。
■インバータ運転化のポイント
«共通の注意点»
1.インバータ運転化した場合、配線ケーブルのサイズを注意する!
定トルク運転用途でインバータ運転化した場合、既設の配線をそのまま使用すると、ケーブルサイズによる
電圧降下の影響で想定した能力を得られません。
特に、モータ容量を大きくした場合、は必ず配線ケーブルのサイズアップが必要です。この場合も
インバータ運転に合わせたケーブルサイズの選定を行います。
2.インバータの導入によるノイズと高調波対策の実施
インバータ運転に変更した場合、インバータの発生するノイズや漏れ電流、この他に電源に与える高調波の
対策が必要となる場合があります。
・電源に与えるノイズの対策-----LCフィルタの一時側挿入(インバータ入力側)
・漏電ブレーカの誤動作対策-----インバータ用の漏電ブレーカへの交換、零相リアクトルの挿入
通常1次側に適用しますが、長距離配線では2次側(インバータ出力側)
への適用も行います。
・高調波対策-------------------インバータの一次側にACリアクトルを挿入します。
DCリアクトルを使用することでも効果が得られます。
特に大容量電源下の環境にある場合、必ずインバータの
一次側にACリアクトルを挿入してください。
・配線サイズの見直し-----------インバータ運転化する場合、低速域での定トルク運転は配線サイズ
に起因する電圧降下(インバータとモータ間)が大きな影響を
およぼします。電圧降下により運転時のモータ出力トルクの低下
を引き起こし、想定していた定トルク運転が出来ません。
必ず配線サイズの確認、検討を行ってください。
・400V級電源と長距離配線-------400V級電源で、インバータ運転化した場合、マイクロサージに
対する検討が必要な場合があります。
50mを超えるような長距離配線の場合ご注意ください。
詳細はPTC事業部「お客様相談センター」までご照会下さい。
3.インバータ本体の接地
・インバータの放出するノイズ対策の一環として、インバータ用に専用の接地を行います。
他の機器と共用の接地は避けてください。
200V級:D種接地 400V級:C種接地 を行ってください。
■A形
定トルク特性の用途が中心のため、比較的インバータ運転化しやすいアプリケーションです。
バイエルで1:4の変速を行っていたため、通常、最高速をインバータ運転の60Hz速度に合わせて、
バイエル又はバイエル・サイクロを選定します。
A形の置換えでは、省エネが可能となり、メリットが有ります。
バイエルのA形は実際には最低速で約2倍のトルクを得られるため、
実際の負荷状態を十分に把握し、置換えをご検討ください。
■B形
B形の最大の特長は定出力特性により、最低速で最高速の4倍のトルクが得られることです。
機械式変速のため変速した比がそのまま減速機の減速比と同等の特性を得られます。
この特性を生かし、化学プラントの反応釜等ではフルにこの大きなトルクを生かした運転を
行います。低速域や、始動時に大きなトルクを必要とする機械への適用も行われています。
このB形の特性をフルに必要な場合、単純にインバータ運転でのモータ容量は4倍の容量が
必要です。
但しインバータ運転の場合、インバータは60Hz(基底周波数)より、上の周波数域で定出力で運転できる為、組み合わせる減速機の減速比を調整することにより、
モータ容量を2.5~3倍程度に下げることが可能です。
注意点は、減速機の許容入力回転数によりインバータで定出力運転ができない場合があり、
都度必ず確認してください。
また、耐圧防爆運転用の場合、運転可能な周波数域は「産業安全技術協会」検定合格
の範囲に限定されます。
特にB形バイエル・サイクロの場合、耐圧防爆環境下での
運転によくご使用されいます。
ご注意下さい。
■D形
D形は、A形特性に近く高変速範囲の必要な用途に採用されています。
インバータ運転の1:10変速範囲と同等の変速範囲ですが、機械変速機のため、A形と同様に
最低速で3倍近くのトルクを得ることができます。
このため、十分に実負荷の把握が重要です。同一容量では容量不足の場合も十分に考えられます。
■初期型 1:12変速範囲を持つバイエル無段変速機
多くの場合、広範囲の変速用にご使用されていますが、インバータ運転化する場合、
定格周波数の60Hz(基底周波数)より上の周波数域で定出力運転をすることで
1:12置換えが可能ですが、上記のように許容入力回転数が減速機に有ります。
検討の際ご確認をお願いいたします。
まとめ
機械式無段変速機からインバータ運転に移行する場合、実際の運転速度、負荷特性、実負荷率を
十分に把握する必要があります。特にバイエル・サイクロを運転いる速度、実際の変速範囲、負荷率を把握することで最適な選定を行えます。
注意)特に大きなモータ容量域で、インバータ運転化した場合、負荷特性(定出力特性)
によってはモータ容量が大きくなり、省エネ効果を期待できない場合があります。
機械変速機の最大のメリットは、モータ容量は小さなままで、最大4倍(B形)のトルクが得られることです。
この特性と、インバータ運転化した場合のメリットを十分に顧慮し最適なアプリケーションをご採用ください。
置換えに関するご質問は、PTC事業部「お客様相談センター」までお寄せください。
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